「高地トレーニング」とは

マラソンのトレーニングの一つとして広く知られている「高地トレーニング」ですが、長距離走ばかりでなく、水泳や距離スキーなど多くの持久系スポーツのトップアスリートも実施しているトレーニングです。その名称は、トレーニング内容ではなく、実施場所が高地(低酸素環境下)であることに由来します。

歴史
1960年ローマ五輪の男子マラソンで、エチピアのアべべ選手が当時の世界記録で優勝しました。エチオピアの首都アディスアベバは標高2,400mにあり、アべべ選手を取り巻く環境は、練習ばかりでなく生活そのものが日々「高地トレーニング」でした。これに端を発し、高地トーレーニングがマラソン練習に取り入れられることとなりました。
日本では、1961年から始まり、君原健二選手の1968年メキシコオリンピックでの男子マラソンでの銀メダルの成果としてあらわれました。

平地と高地の環境の違い

海抜0mの平地では気圧は1,013 hpaで、酸素濃度は20.92%、酸素の分圧は212 hpaですが、それに対し、2,200mの高地では、気圧は776 hpa、酸素濃度は16.0%、酸素の分圧は162 hpaと低酸素になります。

高地トレーニングの効果
低酸素環境では、骨髄の増血作用を促すエリスロポイエチンの分泌が増加し、その結果として赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット値の増加などの適応(順化)が生じます。また、筋肉への酸素の供給が制限されるため、平地に比べて相対的に運動強度が高くなります。その結果、平地と同じトレーニングを行なっても、筋肉への酸素の運搬能力や、有酸素性エネルギーの産生能力がより高まります。また、乳酸系の代謝が抑制されるため、無酸素運動下での血中乳酸濃度を低く保つ能力が向上することも報告されています。多くのトップアスリートはこの適応現象を期待して、高地トレーニングを行っています。
さらに、最大酸素摂取量が増え、酸素の運搬能力が高まることも知られています。

トレーニングに適した標高
最もトレーニング効果の期待できる高度は、
標高1,600〜1,800mといわれています。それ以上の標高では体調を崩しやすいとのことですが、現実にはこの高さを超えるレベルでもトレーニングが行われていて、パフォーマンス向上につながっている場合もあります。
 トレーニング場所の標高が上がれば、酸素運搬能力の向上は期待できますが、筋肉への負荷が十分にかけられない段階で、心肺機能が一杯となり、総合的にはトレーニングの効果が上がらない可能性もあります。また低酸素環境では疲れが溜まりやすく、オーバーワークになることもしばしばあり、トレーニング負荷の加減が難しいとされています。
 高地トレーニングが行われている代表的な場所を以下に示します。
    米国コロラド州ボルダー(標高1,650m)
    米国ニューメキシコ州アルバカーキー(標高1,600m)

    スイス・サンモリッツ(標高1,780m)

    中国・昆明(標高1,890m)
    長野県・菅平高原(標高1,300m)
    長野県・峰の原高原(標高1,500m)

    岐阜県・飛騨御嶽高原(標高1,300m〜1,800m)

 米国コロラド州ボルダーの近隣地ネダーランドのマグノリアDr(ボルダーの街の中心から車で約30分、標高約2,500m)
は、特にエリートランナーに好まれています。その理由は標高の高さだけでなく、コースレイアウトによります。酸素の薄い高地では、呼吸が先に上がってしまうため、筋肉への負荷が十分にかけられませんが、マグノリアDrはアップダウンが連続しているため、心肺機能と同時に筋力も強化できます。

期間
3〜6週間が一般的ですが
、3〜4日の短期間のトレーニングの繰り返しでも同等の効果があるともいわれています。

問題点
高地への適応能力は個人差が大きく、個々の選手に適したトレーニング内容(強度)の設定が必要となります。そのため、コーチ・選手ともに十分な経験が必要です。低酸素環境はそれだけで心身へのストレスが大きく、よりきめ細かい体調の管理(医学的サポート)が必要で、特にオーバートレーニングには要注意です。

参考資料
日本体育協会「高地トレーニングガイドライン

high-altitude_training.pdf
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